エチルアルコール,酒精,アルコール,メチルカルビノール
項目名称
エタノール
臨床的意義
- エタノールは,中枢神経,特に大脳や毛様体賦活系に対する強い抑制作用を持ち,体温調節中枢,血管運動中枢,抗利尿ホルモン分泌を抑制するほか,肝,胃,膵などの消化器系,呼吸循環器系への障害を起こす作用がある.多量のエタノール摂取により生命に危険を生じる急性アルコール中毒,アルコール依存症,薬物を用いた治療においては薬物代謝酵素の誘導・阻害による予期しない生体反応の出現が問題となる.
- エタノールは経口,吸入,経皮の3経路で体内に摂取される.血中エタノール濃度0.2~0.5mg/mlでほろ酔い,爽快感,軽度判断力低下がみられ,0.5~1.5mg/mlで多幸症または不快気分,多弁,注意力減退などが,0.5~2.5mg/mlで不明瞭言語および失調性歩行,感覚鈍麻,頻脈,傾眠状態,感情不安定,3mg/mlで昏迷,深呼吸,嘔吐,失禁,4mg/mlで昏睡がみられる.3~4mg/mlで呼吸麻痺が起きるとされる.
- 急性アルコール中毒の重症度は,ピークとなる血中濃度,その濃度までに達する時間,その濃度の持続時間などによって決まる.胃に食物があるとピーク時血中濃度が空腹時の70%に低下する.
- 吸入曝露では,運動負荷のない状態では7,500~8,000ppm,3時間曝露で血中濃度は0.1mg/ml以下であるが,運動負荷があると0.45mg/mlになるという.職場の許容濃度は日本では未設定で,アメリカでは1,000ppmである.
- 経口摂取されたエタノールは胃からも吸収されるが,吸収量が多いのは十二指腸と空腸上部である.吸収量の95%は肝で代謝され,残りは未変化体として呼気,尿,汗などに排出される.肝での代謝の70~80%はアルコール脱水素酵素により,残りはミクロソーム・エタノール酸化系(MEOS)によりアセトアルデヒドに酸化され,さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸へと酸化される.エタノール常用者ではMEOS活性が誘導されるために,酒に強くなる.特にチトクロムP4502E1アイソザイムの誘導は,同時に摂取された薬物や毒物の代謝活性化または不活性化の観点から重要である.
- エタノールに対する感受性(酒に強いか弱いか)の個体差は大きいが,これは日本人の約半数がALDH活性のきわめて低い変異型アイソザイムを有するためである.活性が低いとアセトアルデヒドが蓄積しやすく,頭痛,吐き気,皮膚の紅潮,動悸,発汗などの不快な症状が早く出現する.
- 飲酒行動以外での曝露は見落とされやすいが,産業現場における吸入による曝露が問題になることがあるので,問診においては留意する.
- 有機溶剤の代謝は飲酒により影響を受けうるので,尿中代謝物の測定(生物学的モニタリング)の際に尿中エタノールも同時に測定しておくと,結果の評価に利用できる.
- 検体が高温で保存され,腐敗やアルコール発酵が起こると測定値は高くなり,遠心分離などにより揮発が促進されると低くなる.また,アセトアルデヒド還元酵素の働きによりアセトアルデヒドが体内に蓄積するとエタノールに変換されて測定値が高くなる.
基準値・異常値
基準値 | 0.1mg/ml未満(検出限界未満:血液・尿) (参考:道路交通法上の「酒気帯び」判定基準は,血中0.3mg/ml以上または呼気中0.15mg/l以上) |
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高値 |
Critical/Panic value |
予想外の値が認められたとき |
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出典:「最新 臨床検査項目辞典」監修:櫻林郁之介・熊坂一成
©Ishiyaku Publishers,Inc.,2008.
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製品情報
エミット エチルアルコール アッセイ
添付文書記載の参照治療域 |
<参照治療域> 本品はヒト血清・血漿・尿中に含まれるアルコール濃度10~600mg/dLを正確に測定します. ◇散発性アルコール飲用者 ・100mg/dL(0.10%):法律上アルコール中毒※ ・200~250mg/dL(0.20~0.25%):注意力が散漫、昏睡状態 ・300~350mg/dL(0.30~0.35%):意識朦朧、昏睡状態 ・>500mg/dL(>0.50%):死の可能性 ※中毒の法的な定義は異なります。 ◇慢性アルコール飲用者 ・100mg/dL(0.10%):わずかな兆候 <測定結果の判定> ・ アルコールレベルの意義は個人差があり、年齢、体重、性別、脂肪過多症、併用薬剤、胃の内容物、低血糖症、許容度等に依存します.アルコールレベルは、摂取してからの時間、検体の種類、また、血清及び血漿の場合は採取部位に直接関連してきます.測定結果は、臨床症状や徴候と照らし合わせて評価ください.* <判定上の注意> ・ 高濃度のアルコールを含む検体を希釈する時は、適切な希釈液(エミット エチルアルコール 陰性キャリブレータ又は脱イオン水、精製水)で正確に希釈されているかどうかが測定結果に影響します. * Ellenhorn MJ, Barceloux DG. Medical Toxicology. New York, NY: Elsevier Science Publishing Company, Inc; 1988:525-526, 782-796. |
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